不倫慰謝料請求訴訟~訴訟での解決を考えるとき

不倫慰謝料請求訴訟~訴訟での解決を考えるとき

 

自分で不倫をしてしまったものの、請求者のAさんと示談できず、訴訟になってしまうことがあります。示談がまとまらない理由は様々ありますが、①金額で折り合いがつかない、②そもそも不貞の有無に争いがある、③接近禁止条項に不条理な点があった―などが考えられるところです。

いずれにおいても、適正金額を裁判官に決めてもらいたいということになれば、訴訟の判決で決めてもらった方が、納得度が高まるかもしれません。また、そもそも不貞の有無に争いがある場合、請求されたBさんとしては慰謝料を支払うのに納得がいかないことが多いと思います。このほか、示談の大枠はまとまっているものの、離婚前提での交渉でありながら、Bさんに、恋人のCさんとの接近を許さないという条項は飲めないということから訴訟になることもあるように思います。

法律上、不倫した配偶者は「有責配偶者」となり、相手が拒否しているなら離婚請求ができないと考えられています。

 

今回は不倫された請求者Aさんからの慰謝料請求が認められる場合と認められない場合について、弁護士が解説します。

 

不倫したけれど慰謝料請求に迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。

 

1.不倫慰謝料訴訟

不倫慰謝料訴訟の簡単な攻撃防御の構造をみると、Aさんの側が、「BさんとCさんの肉体関係」を主張立証することになります。

これに対して、Bさんの側としては、「故意又は過失がない」、「婚姻関係が破綻している」「因果関係がない」といった反論をすることになります。

不貞行為は、一般に「肉体関係」のことをいいます。もちろん、下級審の中では、性交類似行為、同棲などの行為が考えられますが、夫婦間の婚姻関係を破綻に至らせる可能性のある異性ないし同性との交流・接触も不貞行為に該当することがあります。

例えば、「キスをしたこと」は肉体関係ではありませんが、不法行為に該当すると判断した裁判例(東京地判平成20年12月5日)や、ホテルに行って一緒に風呂に入ったり、体に触れるなどの性的行為を行ったりしていたことが不法行為に該当するとした裁判例(東京地判平成23年4月26日)があります。

もっとも、裁判官としては、キスをしたという間接事実から肉体関係を推認した可能性もありますし、ホテルの一緒の部屋に入った場合は不貞行為があったと推認して構わないことになっています。このように、意外と「肉体関係」があると推測される間接事実・補助事実は広いということをご理解いただければと思います。

 

裁判例には、若干の混乱は見られますが、基本は、不貞慰謝料訴訟を提起する場合、「肉体関係」をゴールに立証を目指していくべきということになります。

 

2.弁護士に依頼したら、「証拠がない」から事実はないと主張はできない

刑事裁判のイメージが強い方は驚かれるかもしれません。示談交渉の段階では、相手方から証拠の開示を受けることはほとんどありません。

しかし、不貞慰謝料訴訟の場合、証拠の提出の前に、代理人弁護士のレベルで、民事訴訟法の認否をしなければなりません。具体的には、「認める」「否認する」「知らない」「沈黙する」という4つの態度を少なくとも主張事実には取らないといけません。

そうすると、証拠があるかないかどうかに関わらず、まずは、認否に応答する必要があります。したがって、刑事裁判とは異なり、証拠があれば証拠がある部分のみ認めるという訴訟態度をBさんはとることはできません。

また、Aさん側から、具体的な事実の主張がある場合は、証拠がないからといって、結審の前に証拠を出してくることもあります。そうすると、Bさんは、裁判官から「嘘つき」と思われてしまい、心証を害してしまう可能性もあります。

このように、「証拠がないから認めない」という応訴態度をとることはできません。

このように、裁判官は、まず証拠は措いておいて、主張レベルで争いのないところは、争点から外していき、争点のみ証拠による事実認定を行うという方向性で審理の効率化を図るのです。

なお、テレビドラマでは「証拠が全て」とか、刑事裁判では、「証拠不十分による無罪主張」が認められていますので、民事裁判のルールに最初はとまどわれるかもしれませんが、ウソをついても、証人尋問でいずれ発覚する可能性もあり、弁護士としてもおすすめはできません。

 

2-1.証拠の種類とその役割

では、争点がある場合の事実認定に用いられる不倫慰謝料訴訟の証拠にはどのようなものがあるのでしょうか。

① 自宅、ホテル、旅館の出入り口付近から出入りしている証拠

② 主に、男性が、携帯電話で、不倫相手との性交渉をスマホで録画した証拠

③ 浮気相手との旅行写真

④ 録音テープ・ビデオテープ

⑤ ICレコーダー

⑥ 興信所の調査報告書

証拠には、直接証拠と間接証拠があります。ここでは、②は不貞行為の直接証拠になります。もっとも、不貞慰謝料訴訟の場合、立証に必要な限度を超えて直接証拠を出すことが、相当ではない場合もありますので、不倫慰謝料訴訟は、弁護士代理人に委任するのが相当であると思います。①及び④は、BさんとCさんが、密室や旅行に行ったという間接事実は分かりますが、一歩進んで肉体関係を持っているかは、①及び④では直接的には分かりません。

したがって、裁判官としては、こうした間接証拠に加え、④及び⑤といった自白証拠といった信用性の低い証拠も併せて、総合判断で、不貞行為を認定できるかの作業をしていることになります。

 もっとも、最近証拠価値を増しているのがLINEです。LINEにおいて、①ラブホテルでの待ち合わせ場所の設定、②性交渉の感想を言い合っている場合、裁判官は、LINEから不貞行為を認めることもあります。

 これまでは、興信所証拠がメジャーでしたしこれらは費用も高額でしたが、これからはLINEのスクリーンショットがメジャーになるかもしれません。

2-2.不倫慰謝料訴訟の勝ちパターン:有利な訴訟を展開するための戦略

不倫慰謝料訴訟の勝ちパターンですが、請求する側と請求される側によって異なると思います。

① 請求する側

 原告としては、請求原因事実の要件事実に照らして主張し、それを裏付ける証拠を提出することが必要です。原告としては、主に、肉体関係を裏付けられる証拠を持っており、かつ、被告の故意・過失を証明できる証拠があるかが重要といえるでしょう。

 証拠については、既に述べましたが、LINEやメール、興信所の証拠、旅行の写真、動画の撮影などで証拠を収集しておくことが必要です。

② 請求される側

 被告としては、「故意又は過失」がなかったし、また、婚姻破綻をしていたという抗弁を提出することが勝ちパターンです。さらに、水商売やホステスの方は、「枕営業事件判決」などを引用しつつ、夫婦共同生活の平和を乱したといえないと反論することが考えられるといえるでしょう。

 もっとも、不倫慰謝料訴訟で最大の争点になりがちになるのは、ACの婚姻関係が破綻していたのか、という点です。つまり、被告は、Bなのですが、実質は、A及びCの対立になるのです。このような視座からいえば、被告は、恋人である原告の配偶者から協力を得られるかがポイントといえるかかもしれません。

③ 和解交渉の検討

 裁判官は、この手の事件を多く扱っていますので、尋問前の和解、尋問後の和解の機会をもうけるかを担当弁護士とよく話し合っていただくのも一つです。訴訟上の和解を成立させることができれば、法的手続きにかかる時間、費用を節約できる場合もあります。もちろん、「和解ありき」ではありませんが、公正な和解条件を確保できるよう、お互い譲り合う精神も大切です。

④ 法的な要件等裁判の徹底した準備

 ヒラソルの弁護士には、二回請求を受けた被告のBさんについて、1回目の示談によって、2回目の請求の債務免除がなされているという判決を勝ち取ったことがあります。これは、名古屋高等裁判所に控訴されましたが、Aさんの言い分は高裁でも認められませんでした。

 また、訴訟物が曖昧な弁護士に対して、訴訟物を明確にすることにより、他の訴訟での清算条項や消滅時効の抗弁があてはまるとして筋を先まで読むことが重要であることを痛感したこともあります。証人の準備、法的な論点の整理、弁護士の連携、訴訟プロセスに備えて十分な準備を行うことが大切です。

2-3.法的に「不倫」を定義する:不倫慰謝料訴訟の成功要因

最高裁昭和54年3月30日判決によれば、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務がある」とされています。

この判決は、最高裁の判決で、ABに対する慰謝料請求をより広く認めるものとされている。

 したがって、法的に「不倫」を定義するとすれば、「肉体関係」があるかどうかを判断するかが重要です。

 この点、風俗店の女性などと「肉体関係」がある場合は不法行為が成立するのかは、見解が分かれています。

 既婚者の性風俗店の利用は不貞行為になるという見解と既婚者の性風俗店の利用は不貞行為にならないという見解があります。今日では、前者の見解の方が有力であると思われます。

 もっとも、素人との交際ではなく、自然の愛情に基づく交際でもないこともあり、慰謝料額の認定は低額な傾向になるということが多いようです。

 では、配偶者から性風俗店の店員やホステスに不法行為の請求をすることはできるのでしょうか。ポイントは、上記判例の考え方からすれば、「肉体関係」があれば要件を満たすとなりますが、通常、性風俗店の店員やホステスは、顧客が既婚であるかどうかに関心はありませんし、調査義務もありませんので、故意ないし過失が否定される可能性が高く、不法行為責任を負わない可能性が高いので注意が必要です。

ホテルヘルス女性を訴えた事例では、「肉体関係」の存在にもかかわらず、請求が棄却されています(東京地裁令和3年1月8日判決)。

判決では、「肉体関係」があったことを事実認定しました。しかし、性交渉が、売春防止法違反となるかどうかなど細かい論点は措いておいて、「店舗の従業員と利用客の関係を超える関係を有していたと推認することはできない」との判決でした。

論理としては、「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われても、直ちに婚姻共同生活の平和を害するとはいえない」し、「その程度は客観的に軽微」として、「金銭賠償をしなければ慰藉されないほどの精神的苦痛もない」としました。

このように、肉体関係があっても、相手方がホテルヘルス女性の場合は、不法行為が成立しないことがあります。

他方、クラブのママやホステスについては、裁判例が若干混乱しているといえます。

 クラブのママやホステスは、そもそも、ホテルヘルスの女性のように、性的サービスを提供することが仕事ではなく、主に飲食店での接待が中心です。

 有名なものとしては、「枕営業判決」といわれた東京地裁平成26年4月14日判決があります。これは、ソープランドの女性との比較において、クラブのママやホステスも、対価が直接的であるか、間接的なものであるかの差に過ぎないという独自の見解を展開し、いわばホテルヘルスの女性のように解釈をして請求を棄却しています。

 しかしながら、この「枕営業判決」は、理論面でも感情面でも多くの反発を招き、現在、指導的意味合いはなくなったと思います。

 なぜなら、クラブのママやホステスは、性的サービスを提供することは仕事の範疇ではなく、飲食店での接待がサービスの本質です。すなわち、クラブのママやホステスをソープランドの女性と同一視する「枕営業判決」の立論自体無理があるのです。

また、一般的に、クラブの顧客とクラブのママやホステスの間には、一定の情がなければ性交渉に発展することは珍しいと考えることもでき、社会通念上、性交渉を申し込めばクラブのママやホステスがこれに応じるとはいえません。そのため、性交渉があれば、個人的な関係で、性交渉に発展したといいやすいと思います。

したがって、専ら性的サービスの提供を目的としているソープランドの女性とは同列には論じられないと思います。

 これを裏付けるように、枕営業判決以降、これを否定する裁判例が多く出されています(東京地裁平成29年3月13日判決や東京地裁平成30年1月31日判決)。

 今般は、弁護士実務上も、「枕営業」であっても不法行為責任がある裁判例があるため、「枕営業」であるから、「肉体関係」があっても、不法行為は成立しないと強弁する弁護士はほとんどいなくなったように思います。

 

3.あなたの弁護士と協力する:不倫証拠の収集と共有

不倫の痛みは、心に深い傷を残します。その回復の過程のプロセスとして、不貞の慰謝料請求訴訟があります。特に簡易迅速に、示談で解決しない場合は、その深い傷はさらに深くなるかもしれません。

もっとも、訴訟である以上、法律要件を証明する証拠がないと、裁判官としては、こちらに有利な事実を認定してくれることはないかもしれません。では、依頼者と弁護士の方はそれぞれどのように協力し、必要な証拠を収集するかどうかについてお話します。

まず、日本の弁護士は、アメリカの弁護士と異なり、事実の調査をするための調査員を持っていません。これは、日本では、探偵業法の規制もあるため、弁護士事務所が従業員として、対立当事者の生活状況を調べたりすることは望ましくないためではないかと考えられます。これは、どこの法律事務所でも同じですし、探偵業者と提携している弁護士事務所は弁護士法で禁止されている「非弁提携」をしているのではないかといって怪しい弁護士事務所認定されても仕方がないでしょう。

したがって、日本の弁護士は、弁護士会照会、裁判所を通じた調査嘱託、文書送付嘱託、証人尋問など、弁護士が入手てきる法的な証拠入手方法を除いて、証拠の入手は依頼者にお願いしているのが一般です。

しかしながら、法廷では、特別な規制があると考えてもらって構いません。法廷に、証拠を提出する場合、プライバシーの侵害には細心の注意を払うべきです。特に、不貞の相手方は、相手方からしてみると、恋人の配偶者は見ず知らずの人という位置づけになるので、スマホやパソコンなどへの不法な侵入は、不正アクセス禁止法に触れる可能性があります。

また、盗聴や盗撮に関しては、抽象的ですが、社会的相当性から逸脱した証拠か否かを弁護士とともに検証する必要があります。また、無断で入手したGPS記録も同様と思われます。

こうした検証をしないまま、探偵のいわれるとおり調査してもらうと、不必要であったり、プライバシーへの侵害が過度で証拠提出できなかったりと、結局、法廷に提出することが困難な証拠を大量に集める方もいます。建前では、日本の民事裁判には、証拠能力の制限や違法収集証拠排除法則が適用されることはほとんどないと理解している弁護士が多く、そのためトラブルを引き起こしている弁護士がいます。そこでまずは不貞慰謝料訴訟に詳しい弁護士にも相談しましょう。

 

不倫慰謝料請求は、プライバシー侵害などで、不貞をした相手方から逆に訴えられるスラップ訴訟も一定確率で起きる類型ですので、提出する証拠についての妥当性については、きちんと検証しておいた方が良いでしょう。自分が、慰謝料を求めて訴えていたのに、探偵のいうとおりに訴訟を提起したら、逆に名誉棄損・プライバシー侵害で訴えられたというケースは、最近よく聞く話です。

 

4.精神的苦痛とその評価:不倫慰謝料訴訟における重要な要素

 

4-1.客観的な要素だけではなく、精神的苦痛の程度の証明も重要

不貞慰謝料訴訟ということになると、①不貞の回数、②不貞期間、③婚姻関係の帰趨、④こどもの有無、⑤不貞カップルの間にこどもはいるか―といった客観的要素で慰謝料額を決めていると考えられる場面があります。

しかし、一例を挙げると、夫婦関係としては離婚や別居に至らなくても、150万円の賠償を命じた裁判例もあります。そこで、ここでは、精神的苦痛とその評価について解説します。

不貞慰謝料訴訟では、不貞行為によって被害者が被った精神的ダメージに対する補償を求めることです。この精神的なダメージ、不倫の事実を知った際のショック、パートナーに裏切られたという感情、将来に対する不安や混乱などの心情を抱くものです。

しかしながら、裁判所としては、その精神的苦痛を「評価」します。この「評価」という作業は難しく、裁判官もカウンセラーではありませんし、一概ではありません。

例えば、うつ病になってしまったり、仕事に支障を来たしたりしている場合は、精神的苦痛が大きいことの裏付けといえます。例えば、医師の診断書やカウンセラーの報告書や自らの日記で証明することが可能かもしれません。

精神的苦痛の評価は、不倫慰謝料請求において一つの重要なポイントとなり得ますし、適切な補償を受けるための必要なステップといえます。

 上記のように、「評価」が難しいからといって、医師の診断書など、客観化できる証拠は提出しておくのが望ましいのではないかと考えます。

不倫慰謝料請求については、示談交渉が先行することがありますが、恨みのようなものが背景にある場合、合理的解決ができず、裁判に発展してしまうということはあり得るかと思います。その場合、この不貞慰謝料請求に関連する一部の重要なポイントに関するコラムをご覧いただくとともに、名古屋駅ヒラソル法律事務所の弁護士に不倫慰謝料訴訟について、ご相談・依頼ください。名古屋駅ヒラソル法律事務所の弁護士は、原告側でも被告側でも多くの活動実績がございます。

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