不倫相手から不倫配偶者への慰謝料の求償権の行使

不貞相手から不貞配偶者への求償権の行使

 

不貞(浮気、不倫の法律用語)の慰謝料請求により、損害賠償金をAに支払ったXYに対し、自己の負担割合を超える部分について求償権を行使することができます。

特にダブル不倫の場合、これまでは事実上、AY夫妻、XB夫妻の場合、事実上の相殺勘定で、より悪質性の強い方が、少し金員を支払って終わるということもありました。これを「求償権放棄を前提とした解決」といいます。

しかし、昨今では、求償権放棄を前提とした解決は少なくなっているように思います。もちろん、今後、離婚や別居予定があり家計が別々になっている場合は、「求償権放棄を前提とした解決」をすることはあり得ません。また、仮に、XAYBという求償の循環もそれぞれの配偶者が納得していなければ、事実上の相殺勘定で解決することは難しくなってきているように思います。

そこで、Yは婚姻中ですが、Xと不倫をしてしまったため賠償責任を生じた場合、XAに全額支払った場合、求償権が発生します。

 

今回は求償権行使の方法やその対応の法的な取り扱いについて、解説します。

1.求償権の行使の方法

X及びYは、Aとの関係では、不法行為に基づく損害賠償債務を「不真正連帯債務」で負います。つまり、自己の内部的負担割合を超えた部分についてはXYに求償することができるのです。

 

この場合、交通事故の過失割合と一緒で内部的負担割合がいくらであるのか、という問題が生じます。訴訟では、中堅の男性と新入社員の女性などの場合、男性の方が過失割合は多いといった主張がなされることがあります。しかし、わたしが経験している限りでは、50:50で判断される傾向が強いと思います。

 

過失割合の変更は、例えば、男性が関係をやや強制していたといえるような事情など、一方の過失割合が著しく大きい場合には修正が認められるのではないか、と考えられます。

 

よって、特段の事情のない限りは、50:50ということになるでしょう。

 

2.判例を解説

不貞とは、配偶者のある人が配偶者以外の異性と性関係を持つことです。相手に対する重大な裏切り行為なので、法律上の離婚原因になりますし、不法行為にもなります。つまり、不貞は不法行為となるので、不貞した配偶者と不倫相手の両方へ慰謝料請求ができます。

 

ただし不貞というためは「配偶者以外の異性と性関係を持つこと」が必要なので、「性交渉」がなければ不貞になりません。たとえばキスをした、抱きしめた、一緒に食事をした、高額なプレゼントを贈っている、LINEなどで「おはよう」といった親しげなやり取りしている、といった事情だけでは法律上の不貞になるとまではいえません。

 

3.求償権の行使に対して、それを防ぐ手立ては少ない

本件では、Aが、Xに損害賠償請求をしました。そして、XYとの関係は不信性連帯債務の関係となります。(最高裁平成6年11月24日)

この点、XAに対する交渉で、「Yの方が悪い!」といった言い分を述べることがあります。

このような内部的過失割合をAとの関係で考慮することができるかは、「求償権放棄を前提の解決」をするか否かで異なってくるといえるでしょう。

 

  • 原則的パターン

原則的パターンとしては、その積極性や経緯などにかかわらず、双方が、全損害賠償責任を連帯して負うと考えるのが、一般的な共同不法行為の原則的パターンです。

  • 例外的パターン

求償権放棄を前提として解決する場合は、当然、XYの内部的負担割合も考慮したうえで相殺勘定をするということになります。このため、XYの積極性や経緯などが、AXに対する請求と、BYに対する請求を相殺するに当たり、事実上考慮されることが多いかと思います。

 

原則的パターンで、求償権を行使する場合は、自己の内部的持ち分を超えて賠償し、その超えた部分についてのみ賠償ができるのが原則です。

 

4.内部的負担割合について

原則的パターンとして、XAに対して、損害賠償全額を支払った場合は、不信性連帯債務となりますから、Aの内部的負担割合を超えて支払った場合、その超えた部分について、連帯債務者であるYに対して求償することができます。

内部的負担割合については、過失割合によりますので、求償訴訟では、「過失割合」が争点になることがあります。

しかし、請求段階では、2分の1ずつと考えてもよいでしょう。

ただし、連帯責任の範囲が異なるということは、内部的負担割合に影響を与える議論の裁判例もあります。

 

連帯責任の範囲が異なる場合もある点にも留意しておく必要があります。

  • 例えば、「不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべき」(東京高裁昭和60年11月20日)とするものがあります。
  • この裁判例を前提とすると、配偶者はYですから、Xについては、減額事由があるとして、内部的負担割合に差異を設けるという考え方はあります。

 

したがって、XYに対して、支払った慰謝料の少なくとも半額は求償をすることができることになります。

 

5.求償権を行使する方法は?

一般的に、求償権行使の方法は、不貞相手が不貞配偶者に対して賠償額の半額を請求することが多いといえます。このような場合、内部的負担割合も2分の1から大きく動くことが少ないと考えられるので、有効な言い分は成り立ちにくいといえます。

このため、必ずしも訴訟によらず、内容証明郵便で任意の支払いを促すことも考えられます。しかし、任意の話合いに応じない場合は、一般的には簡易裁判所に訴訟提起することが多いと思われます。

その後の支払いが得られない場合は強制執行などを検討せざるを得ないと思われます。

求償権放棄を前提としない場合は、ここでいうYが任意に支払ってくれないというリスクが生じる点がポイントとなります。つまり、回収できない場合は、全額自己負担となってしまう恐れもあるのです。

6.求償権放棄による解決

この解説の事例では、AY夫婦とBX夫婦の不貞を取り上げていましたが、双方とも離婚や別居が念頭にない場合は、家計も分かれるわけではなく、かえって解決が迂遠になる可能性があります。

そこで、実務上、かつてはダブル不倫の場合では、求償権放棄前提での解決がよく行われていました。ただし、現在では、頻繁に行われているかどうかは不明です。

繰り返すとおり、不真正連帯債務の場合、仮に不貞の相手方が、損害賠償額全額を支払った場合、不真正連帯債務者間の内部負担額2分の1を超えた部分は少なくとも求償できると思われます。

不貞に関する事案では、

  • 不貞相手は許さないものの、不貞の配偶者に対してはあえて金銭請求をしないし、離婚もせずに、婚姻関係を継続することがよく見られます。
  • こういった場合、不貞の配偶者から不貞相手に求償金の支払いを行うと、家計全体でみると、家計は同一ですから、家庭内の財産が流出すると評価されたり、実質的に、慰謝料の半額しか受け取ったりしていないと評価されることがあります。
  • 例えば、AがXに150万円を請求したとしても、BがYに150万円を請求し、双方が支払うことになる場合、AYとBXの家計が同じであることから、家庭内の財産が流出するだけで終わると評価されることがあるのです。
  • また、仮に、Xが独身であるとして、AがXに150万円を請求しても、XがYに75万円を求償した場合、慰謝料の半額しか受け取っていないという状況が生まれるのです。

そこで、不貞の相手方から求償請求をしないことを約束させるケースもあります。

なお、求償権の放棄は、民法上の「免除」に該当します。債務を免れさせる一方的意思表示のことです。ただし、一方的意思表示といっても、求償権放棄前提であるのか、そうでないのかでは、求償権の行使がなされるかが異なってきますので、文書で明確にするのが通例となっています。

 

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