LINEから不貞訴訟の被告相手を特定する手段~弁護士会照会
LINEしか連絡手段がない相手を特定する方法
LINE通報制度を用いた弁護士会照会――不貞訴訟・債権回収への実務的応用
弁護士会照会
民法709条・710条
債権回収
インターネットやマッチングアプリで知り合った相手との取引や関係において、LINEのニックネーム以外に氏名・住所・電話番号が一切不明という事案が増えています。
以前は通信の秘密を理由に開示が困難でしたが、2025年12月以降、一定の手順を踏んだ弁護士会照会によって、LINEアカウントに紐づく電話番号・メールアドレスの開示が得られる見込みとなりました。そこで、弁護士が、LINEのデバイスから相手方を特定する方法について解説します。なお、弁護士会照会は具体的事件が必要であり、抽象的な照会はできません。
1 問題の所在
不貞行為に基づく損害賠償請求は、民法709条・710条に基づき、夫婦共同生活の平和という法的利益を保護する制度です。
しかし、近年の不貞関係は、SNSやメッセージアプリを通じて形成・継続されることが多くなっています。そのため、不貞相手の電話番号、氏名、住所が分からないまま、LINE上のニックネームだけが手掛かりとなる事案も少なくありません。
従来、このような場合、被害配偶者は不貞相手を特定すること自体に大きな困難を抱えていました。訴訟を提起するためには、被告となる相手方を特定する必要があります。しかし、LINEアカウントしか分からない場合、電話番号やメールアドレスの開示は、通信の秘密との関係から慎重に扱われてきました。
このような状況の中、日弁連法1第391号 2025年(令和7年)12月25日「LINEヤフー株式会社に対する電話番号等の弁護士会照会について(通知)で、LINEアカウントについて一定の特定ができるようになりました。
弁護士に相談するときに必要なもの
この手続きを使って相手を調査したい場合、法律相談の際に以下の情報が必要になります。
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あなたのLINE登録電話番号(またはLINE ID)
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通報した正確な日時(〇月〇日 〇時〇分~〇時〇分の間、という情報が必要です)
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通報した回数(「念のため2回やった」という場合は、その回数も重要です)
により、LINEヤフー株式会社との協議の結果、一定の条件のもとで「通報ログ」を利用したアカウント特定方法が示されました。これにより、弁護士会照会を通じて、電話番号やメールアドレスの開示を受けられる可能性が生じたとされています。
本稿では、このLINE通報制度を利用した特定方法について、通信の秘密との関係、不貞訴訟における実務的意義、今後の課題を整理します。
2 従来の開示困難の背景
憲法21条2項は、「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定めています。
通信の秘密は、単に通信内容だけを保護するものではありません。誰と誰が通信したのか、いつ通信したのかといった通信の存在や外形に関する情報も、通信の秘密と密接に関わるものとして理解されています。
LINEトークは私人間の通信であり、その内容はもちろん、送受信の事実や通信主体に関する情報も慎重に扱われる必要があります。
電話番号やメールアドレスは、メッセージ本文そのものではありません。しかし、それらは特定のLINEアカウントの利用者を識別する情報であり、通信主体の特定につながる情報です。そのため、事業者側は、弁護士会照会に対しても、従来、開示に極めて慎重な姿勢をとってきました。
その結果、被害配偶者がLINE上の表示名やニックネームしか把握していない場合、不貞相手の特定が困難となり、損害賠償請求権の行使が事実上妨げられる場面がありました。
3 LINE通報制度の法的構造-「通報ログ」を手掛かりに
今回示された方法の特徴は、トーク内容そのものではなく、「通報ログ」を特定の手掛かりとして用いる点にあります。
通報とは、LINE利用者が、特定のアカウントについてLINEヤフー株式会社に報告する内部システム上の行為です。これは、利用者同士のメッセージのやり取りそのものではありません。
この点で、次のような区別が重要になります。
トーク内容は、通信の秘密の中核に位置します。これに対し、通報ログは、事業者が管理するシステム上の記録です。
したがって、照会にあたっては、トーク内容を詳しく記載するのではなく、「接触を受けた」「勧誘を受けた」など、必要最小限の抽象的な事実を記載することが求められます。
この制度設計は、通信内容そのものに踏み込むことを避けながら、通報というシステム上の記録を手掛かりとして対象アカウントを特定しようとするものです。
LINE IDが不明な場合でも、通報元アカウント、通報日時、通報回数などを組み合わせることで、対象アカウントを特定できる可能性があります。特に、通報日時については、一定の時間幅、たとえば前後1分程度の範囲で正確に把握しておくことが重要になります。
このように、通報制度は、通信内容を直接利用するのではなく、限定されたシステムログを利用する点に特徴があります。
4 不貞訴訟における実務的意義
不貞訴訟においては、不貞行為の存在を立証する以前に、まず相手方を特定しなければなりません。
従来、弁護士実務では、電話番号、車両ナンバー、自宅情報、勤務先情報などから相手方の特定を試みることがありました。しかし、勤務先への接触には慎重な配慮が必要であり、また、そもそも手掛かりがLINEアカウントしかない場合には、特定作業に限界がありました。
LINE通報制度は、この「訴訟提起前の特定」という前段階の壁を突破する手段となり得ます。
もちろん、この制度によってトーク履歴やメッセージ内容が開示されるわけではありません。開示対象は、電話番号やメールアドレスといったアカウントに紐づく情報に限られます。
しかし、電話番号やメールアドレスが判明すれば、その後、弁護士会照会等を通じて契約者情報の確認につながる可能性があります。その意味で、本制度は、不貞訴訟における被告特定の実効性を高める制度的手段と評価できます。
また、LINEアカウントが削除された場合でも、一定期間ログが残る可能性があるとされています。ただし、保存期間には限界があります。そのため、被害配偶者としては、発覚後速やかに通報し、その日時や回数を正確に記録しておくことが重要です。
5 通信の秘密との調整
本制度の本質は、通信の秘密と損害賠償請求権の調整にあります。
一方では、LINE上のやり取りは私人間通信であり、通信内容を安易に開示させることは許されません。通信の秘密は、憲法上保護された重要な利益です。
他方で、デジタル空間における匿名性を利用して、民事上の責任追及を免れることが許されるわけでもありません。不貞行為によって夫婦共同生活の平和が侵害された場合、被害配偶者には損害賠償請求権があります。
LINE通報制度は、通信内容そのものには踏み込まず、通報ログという限定された情報を利用することで、両者の調整を図るものです。
すなわち、通信の秘密を尊重しながら、民事責任追及の実効性を確保するための、抑制的かつ限定的な制度装置といえます。
6 実務上の注意点と課題
もっとも、本制度には実務上の課題もあります。
まず、通報日時や通報回数が不明確であれば、対象アカウントの特定が困難になります。
通報をしただけで安心するのではなく、いつ、どのアカウントから、何回通報したのかなどが重要になるため、実務上は、弁護士との打ち合わせの際に通報するなど正確な記録が必要となります。
また、通報方法を誤ると、照会に必要なログが適切に残らない可能性もあります。したがって、実際に制度を利用する際には、事前に弁護士へ相談し、証拠保全と特定作業を一体として進めることが望ましいといえます。
さらに、本制度は、あくまで弁護士会照会という任意的な制度を前提としています。事業者が常に開示に応じるとは限らず、また、法的根拠が明確に制度化されているわけでもありません。
デジタル時代における民事訴訟では、被告特定の困難が今後ますます大きな課題となります。将来的には、通信の秘密を保護しつつ、民事上の権利行使を実効化するための、より明確な立法的整理が求められるでしょう。
7 新しいLINE制度の概要
2025年12月25日付の日弁連通知に基づき、LINEヤフー株式会社との協議の結果、LINE上の「通報」機能で生成される通報ログを特定キーとして用いることにより、弁護士会照会を通じて対象アカウントの電話番号およびメールアドレスの開示が得られる見込みとなりました。
開示されるものは以下のものです。
① LINEアカウントに登録された電話番号・メールアドレス
開示されないもの
① 氏名・住所・トーク内容・通信履歴(通信の秘密の中核として保護)
② 照会書にはトーク内容を記載する必要はありません。「接触を受けた」「未払いが生じた」といった抽象的な事実を簡潔に記載するにとどめます。
③ 通信内容に踏み込まずに必要最小限の情報開示を求める制度設計であり、憲法21条2項との抵触を抑制するものです。
具体的な手順
証拠保全・通報の実施
相手方のプロフィール画面(表示名・アイコン)をスクリーンショットで保存。その後、LINEの「通報」機能から対象アカウントを通報し、通報日時・通報回数を正確に記録する。これは、弁護士事務所で行います。具体的には、相手のプロフィール画面を表示 → 右上(または右下)のメニューボタン等をタップ → 「通報」を選択します。
※第二東京弁護士会会報には、最後に、調査室としても試行錯誤している段階ではありますが、申出書に記載しておくと回答が得られやすくなるポイントをいくつかご紹介します。
① LINEの通報機能で依頼者アカウントから相手方アカウントを通報し、当該通報日時を記載
② 依頼者アカウントの登録電話番号を国番号(例:81)から記載
③ アカウント名は、全角・半角、大文字・小文字を区別
④ LINE IDの英数字にはフリガナ・ルビを付す
※ 詐欺案件などの悪質な事案な場合には、その悪質性を具体的に記載し(口座凍結済み等)、アカウント情報が開示されるべき必要性・相当性を補強すると、より説得的な照会理由となります。
―と説明されています。
弁護士への相談・依頼
法律相談の際、通報ログの情報を弁護士に提供。弁護士は事件解決のため、照会の必要性・相当性を検討したうえで、弁護士会を通じてLINEヤフー株式会社に照会を申請することになります。
なお、具体的な事件がないのに、抽象的に弁護士会照会をすることはできません。このような濫用目的のお問合せにつきましては、対応できない旨伝達し、それ以上の説明は行いません。
電話番号・メールアドレスの取得
照会が認められた場合、対象アカウントに登録された電話番号およびメールアドレスが回答されます(氏名・住所は回答されない)。
通信会社等への追加照会
判明した電話番号を管理する通信会社(アクセスプロバイダ)等に対して別途弁護士会照会を行い、契約者情報(氏名・住所)を取得します。
訴訟提起・代金回収の実現
特定した相手方に対して内容証明郵便による請求、または民事訴訟・支払督促等の法的手続を進めることになります。
結語
LINE通報制度を利用した弁護士会照会は、不貞訴訟における被告特定の新たな手段となり得ます。
それは、通信の秘密を軽視する制度ではありません。むしろ、通信内容そのものには踏み込まず、通報ログという限定された情報を利用することで、憲法上の価値と私法上の救済を調整しようとするものです。
不貞行為がSNSやメッセージアプリを通じて行われる現代において、加害者が匿名性の陰に隠れることを許せば、損害賠償請求権は実効性を失います。
その意味で、LINE通報制度は、単なる技術的手段ではなく、デジタル社会における民事責任追及の実効性を支える重要な制度的鍵となり得るものです。
もっとも、実際に利用するためには、通報の方法、日時の記録、証拠保全、弁護士会照会の組み立てを慎重に行う必要があります。制度の成否は、初動対応と実務設計に大きく左右されます。
なお、当事務所では、弁護士会照会のみの利用を目的とするお問い合わせはお受けしておりません。実際の不貞慰謝料請求事件の受任・相談の中で、必要に応じて検討する手続となります。
8 新しいLINEを通じた特定の注意点
電話番号・メールアドレスが判明しても、直ちに氏名・住所が分かるわけではありません。通信会社等への追加照会が必要となる場合がほとんどです。
また、弁護士会照会への回答は義務付けられていないため、照会をすれば必ず回答が得られる制度ではありません。
9 まとめ
LINE通報制度を利用した弁護士会照会は、通信の秘密を尊重しつつ、匿名化された相手方を特定するための新たな実務手段です。「相手の名前も住所も分からない」状況でも、LINEアカウントを端緒として法的手続を進められる可能性があります。ただし、弁護士会照会の具体的な運用は今後変更される可能性もありますので、早めにご相談ください。
当事務所では、具体的な事件としてのご相談・ご依頼を前提に、必要性・相当性を慎重に検討したうえで対応いたします。弁護士会照会のみの利用を目的とするご相談・ご依頼はお受けしておりません。また、本コラムは2026年2月時点の情報に基づくものであり、制度の運用は今後変更される場合があります。
LINE通報制度を利用した弁護士会照会は、通信の秘密を尊重しつつ、匿名的デジタル関係における民事責任追及を可能にする限定的な制度装置といえます。
それは、憲法的価値と私法的救済との調整点を模索する、過渡的だが重要な実務的解といえると思います。
不貞訴訟においては、単なる技術的手段ではなく、損害賠償請求権の実効性を確保する制度的鍵となり得る。
※なお、弁護士会照会のみの利用などを意図したお問い合わせはご遠慮ください。
参考文献:神奈川県弁護士会HP(https://www.kanaben.or.jp/profile/case/2026/02/line.html)
第二東京弁護士会(https://niben.jp/niben/pdf/43_bengoshikaisyokai_NF6.pdf)
