不倫慰謝料請求で公正証書化を求められたときの対処方法
不倫慰謝料請求で公正証書化を求められたときの対処方法
「示談書を公正証書にするように求められたのですが、応じないといけないのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがあります。結論的には、一括やそれに近い場合は、応じる必要はありませんが、長期の分割などの場合は示談の条件には十分なり得るところではないか、と思います。
不倫で慰謝料請求されたとき、相手から「示談書の公正証書化」を求められて困惑される方が少なくありません。
示談書を安易に公正証書にすると、後に支払えなくなったときに給料や預金などを差し押さえられるリスクが発生します。
相手の要求に簡単に応じるのは危険といえるでしょう。
この記事では示談書を公正証書にするとどういった効果が発生するのか、示談書の公正証書化を求められたらどのような対応をとればよいのか弁護士が解説していきます。
1.公正証書とは
公正証書とは、公証人が公文書として作成する信用性の高い文書です。
当事者同士が作成する一般的な示談書であっても、公証人に依頼すると公正証書にしてもらえます。公正証書は公文書であり、公証役場で原本が保管されます。
以下で一般人が作成する示談書と公正証書の何が違うのか、みてみましょう。
1-1.一般の示談書と公正証書の違い
公文書か私文書か
一般の私人が作成した文書と公正証書の違いの第一は、「公文書か私文書か」という点です。一般の私人が作成した文書の場合、私文書であって信用性はさほど高くありません。
一方、公正証書の場合には公文書となって信用性が大きく高まります。
原本が公証役場で保管される
公正証書と私人が作成した文書とでは、保管場所も異なります。
一般の私人が作成した文書の場合、作成者などが自分で保管しなければなりません。
一方、公正証書の場合には公証役場に原本が保管されているのです。
紛失や変造のリスクがない
公正証書の場合、紛失や変造のリスクがありません。
原本が公証役場で保管されて本人には「謄本(とうほん)」や「正本(せいほん)」という写ししか交付されないからです。
原本が公証役場で保管されるので、本人が謄本や正本をなくしてもまた公証役場へ謄本を申請できます。
一方、私人が作成した文書の場合、原本を紛失してしまったら写しの再発行はできません。
また公正証書の場合、原本が公証役場で保管されるので誰かが書き加えたり破棄したりもできません。私文書なら書き加えのリスクが発生します。
強制執行認諾条項をつけられる
公正証書と私人が作成した書面では「強制執行認諾条項(きょうせいしっこうにんだくじょうこう)」をつけられるかについても大きく変わってきます。たいていの公正証書には、「強制執行認諾条項」が付されているケースが多いのではないでしょうか。
強制執行認諾条項とは、債務者が強制執行(差し押さえ)を受け入れる条項です。
金銭債務の債務者が強制執行を受け入れると、債務者が支払いをしないときに債権者はすぐに差し押さえができます。これは、言い換えると、確定判決と同じ力があるということになるのです。
私人が作成した文書の場合、強制執行認諾条項をつけられません。債務者が支払いをしないとき、債権者はいったん訴訟などを起こさないと差し押さえができません。
公正証書では強制執行認諾条項がつくことにより、強制執行(差し押さえ)が非常に簡単になります。
1-2.公正証書を作成する費用
公正証書を作成するには費用がかかります。
主に発生するのは公証人の手数料です。
公証人の手数料は、約束する慰謝料の金額によって異なります。
一般的には以下の通りの金額になります。
目的の価額 手数料
100万円以下 5000円
100万円を超え200万円以下 7000円
200万円を超え500万円以下 11000円
500万円を超え1000万円以下 17000円
1000万円を超え3000万円以下 23000円
3000万円を超え5000万円以下 29000円
5000万円を超え1億円以下 43000円
不倫慰謝料の場合、手数料は1万円前後となるケースが多いでしょう。
公正証書の手数料は公正証書を作成する当日に公証人へ現金で払わねばなりません。
公正証書を作成する場合、手数料を支払う人が当日現金を公証役場へ持参する必要があります。
2.公正証書を作成する流れ
公正証書を作成する場合の流れは以下のようになります。
2-1.示談を成立させる
まずは当事者同士で話し合って示談を成立させる必要があります。
公証役場では法律相談ができないので、示談の成立方法などについては相談に乗ってくれません。まずは自分たちで示談の内容を決めてから公証役場へ申し込みましょう。
2-2.公証役場へ申し込む
示談ができたら、公証役場へ申込みをします。
担当の公証人が決まったら、作成してほしい示談の内容を伝えましょう。メモなどを渡すとスムーズに内容が伝わりやすくなります。
2-3.必要書類を揃える
公正証書を作成するにはいくつか必要書類を揃えなければなりません。
具体的には本人確認書類や印鑑が必要です。
以下のものを本人確認書類として使えます。
印鑑証明書と実印
運転免許証と認印
マイナンバーカードと認印
住民基本台帳カード(顔写真つきのもの)と認印
パスポート、身体障害者手帳又は在留カードと認印
*パスポートについては、取り扱いが変わっている場合がありますので、詳しくは公証人役場にお問い合わせください。
2-4.当日、公証役場へ出頭して署名押印する
本人確認書類と印鑑を揃えたら、定められた当日に公証役場へ行って公正証書を作成してもらいます。当日は公証人が公正証書を作成してくれているので、内容を確認して問題なければ当事者が署名押印します。
公証人も署名押印すれば公正証書が出来上がります。
完成した公正証書の原本は公証役場で保管され、当事者らには謄本や正本などの写しが交付されます。
3.不倫の示談書を公正証書にする効果やリスク
不倫の示談書を公正証書にすると、どういった効果やリスクが発生するのでしょうか?
支払いを滞納したときに差し押さえられる
一番の問題は、支払いを滞納したときに給料や財産を差し押さえられる可能性が発生することです。
自分たちで作成した示談書があるだけなら、支払いをしなくてもすぐに差し押さえは受けません。まずは相手から訴訟などを起こされて、その内容が確定してからの差し押さえ処分になります。
ところが公正証書があると、支払いを滞納したらすぐに相手に差し押さえられてしまうので、不利益が大きくなってしまいます。
公正証書を作成した場合、作成しなかった場合以上に支払いに関しては遅れないように慎重に対応する必要があるでしょう。
4.示談書の公正証書化は断れる
不倫慰謝料の示談をするときには、請求者側は公正証書にするよう求めてくるケースが多々あります。ただ公正証書化に応じなければならないわけではありません。
公正証書は、当事者双方が合意しないと作成できないので、一方当事者は公正証書化を断ることも可能です。断った場合、無理に公正証書を作成される可能性はありません。
滞納した場合のリスクを考えると、断れるのであれば公正証書は断った方が無難でしょう。
もっとも、きちんと支払っていれば、強制執行を受けることはありませんので、分割払いの場合は公正証書化を求めてくることは通常あり得ることといえるかもしれませんね。
5.示談書の公正証書化を断るリスク
不倫の示談をするときに公正証書を断っても何の問題もないのでしょうか?
公正証書化を断ると、示談が成立しにくくなる可能性があります。
具体的には相手から以下のような対応をとられるリスクが発生します。
請求者が納得せずより高額な慰謝料を求めてくる
請求者が分割払いを不安がって認めない(あくまで一括請求を求めてくる)
分割払いの期間を短くされる
示談が決裂して訴訟を起こされる
相手から打診された公正証書を断る場合には、相手の態度が硬化する可能性についても考えに入れておく必要があるでしょう。
6.示談書の公正証書化を求められたときの対処方法
請求者から示談書の公正証書化を求められたらどのように対応すれば良いのでしょうか?
以下で考えられる対処方法をいくつかご説明します。
6-1.まずは断る
金銭債務を支払う側にとって、公正証書を作成されると不利益が及びます。支払いができなかったときに給料などを差し押さえられる可能性があるからです。
作成したくない場合には、作成を断りましょう。
相手が納得すれば公正証書を作成しなくて済む可能性があります。
6-2.慰謝料の減額交渉材料にする
相手が公正証書の作成を望んでいても、こちらが応じなければならないわけではありません。ただ相手が納得しなければ訴訟を起こされる可能性もあるでしょう。
示談を成立させるために公正証書化に応じざるをえない場合には、公正証書の作成と引き換えに慰謝料の減額を打診してみましょう。
相手がどうしても公正証書を作成したい場合、減額に応じる可能性があります。
同じように、慰謝料の分割払いを提示したり、分割期間を延ばしてもらったりするための交渉材料にもできます。
6-3.手数料は相手に負担してもらう
公正証書を作成する際には、手数料がかかります。手数料は折半することが通例といえます。公正証書の作成によって利益を得るのは請求者の方なので、手数料については請求者に負担してもらうということも考えられます。
「折半」などといわれても、いったんは、基本的には相手に全額の手数料の負担を求めるようおすすめします。もっとも、相手も感情的になっていることも少なくありませんので、状況を見ながら交渉するのが良いでしょう。
6-4.公正証書の作成を弁護士に依頼できる
公正証書を作成する際には、相手と同じタイミングで公証役場へ行かねばなりません。相手と顔を合わせたくない方も多いでしょう。このスケジュール調整は意外と大変です。また、あまり知られていませんが、公証人役場にはキャンセル料があり、無断キャンセルはキャンセル料を請求されたり、その公証人役場の出入りを禁止されたりする可能性もないとはいえず、小さなトラブルが積み重なっていく可能性があります。
顔を会わせたくない、そんなときには公正証書の作成を弁護士に依頼するようおすすめします。
弁護士に委任すれば弁護士だけが出頭して公正証書を作成できるからです。
自分で出頭しなくて良いので手間や時間も節約できますし、相手と顔を合わせる精神的な負担も受けずに済みます。
また公正証書を作成するかどうかや慰謝料の金額、分割条件などの交渉も弁護士に依頼できます。弁護士を間に入れた方が有利な内容で解決できる可能性が高まるでしょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では不倫慰謝料関係のトラブル解決に力を入れて取り組んでいます。慰謝料請求をされたときに相手から公正証書を求められて困ったときには、お早めにご相談ください。