不貞している相手がまだ同居している場合、慰謝料は必要?
結論からいうと、多くの弁護士の見解は少額にとどまるとの見解を示していると思われます。
夫婦における保護法益は、「夫婦共同生活の平和の維持」にあるとされています。
そうすると、円満に戻っている同居状態だと「夫婦共同生活の平和の維持」に回復しています。
そこで考えてみるとA説とB説が考えられます。
A説は、不法行為は直ちに遅滞に陥るのであるから加害行為の時期も直ちにとらえるということになり、そして、一度、別居やケンカ・口論が絶えない状況に置かれた以上、それはその後回復されたからといっても、それなりの損害は支払わないといけない、という見解です。
これに対してB説は、損害は評価であり、口頭弁論終結時で決まるのであるから、それまでに円満に家庭が回復していれば損害は基本的にはなくなるので、認められるとしても少額にとどまるという、見解です。
個人的には、A説、B説、いずれにも難点があり、継続的に口頭弁論終結時までの夫婦共同生活を観察して、それを乱された程度を精神的慰謝として賠償を命じるという見解が相当のように思われます。
今般、同居している夫婦の夫が不貞した事件において、150万円の支払を命じる判決が言い渡されました。名古屋地裁平成29年9月4日は、約4カ月の不貞行為につき150万円という評価です。これは当事務所が勝ち取った判決です!
判決は、被告と夫が不貞行為を継続していた期間や原告と夫の婚姻期間、離婚や別居には至っていないものの、原告と夫との間で未だに不貞行為に関してケンカになることがあること、被告と夫の不貞行為の発覚後、原告は適応障害、抑うつ状態と診断されているところ、その時期からみて、不貞行為が一因となったことは否定できないことなどの事情に、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告の精神的苦痛としては150万円を認めるのが相当である、というものです。
理論的にみると、この事件は、夫が不貞行為をしていたものの、特段別居をしていたという事情もなく、口論などがあったとか、うつ病になったとかの事情があるとおもわれますが、夫婦共同生活の平和は維持されており、その乱されたものが、どうだったか、というものであると思われます。もっとも、これは不真正連帯債務の関係にありますから、実質は75万円程度ということになるのだろうと思われます。こうした場合、リターンマッチ訴訟もあり得ますので、訴訟は、長引くので実務的ではないと考えられます。しかし、原告の精神的苦痛を考えるとき、離婚の話しや別居の話しも出ておらず、「乱された」程度の問題としては、やや損害の評価が高いのではないか、とも考えられます。