LINEから不貞訴訟の被告相手を特定する手段~弁護士会照会
新たな不貞訴訟における被告特定手段としてのLINE通報制度
――通信の秘密と損害賠償請求権の調整構造――
第1章 問題の所在
不貞行為に基づく損害賠償請求(民法709条・710条)は、夫婦共同生活の平和という法的保護を具体化する民事責任法理です。
しかし、近年の不貞関係はSNS・メッセージアプリを介して形成されることが多く、不貞相手の電話番号はもちろん、相手方の実名・住所が判明しないまま関係が継続している事例が珍しくなくなってきました。
とりわけ、LINEアプリ上のニックネーム表示のみが手掛かりとなる場合、被害配偶者は被告の特定に困難を来すことが多いといえました。この問題は、従来、通信の秘密(憲法21条2項)との関係で、LINEアカウント情報(電話番号・メールアドレス)の開示が消極的に扱われてきたことに由来しています。
2025年12月25日付の日本弁護士連合会通知は、LINEヤフー株式会社との協議の結果、「通報ログ」を利用した特定方法により電話番号及びメールアドレスの開示が得られる見込みであると公表した。本稿は、この新制度の法的構造と実務的意義を検討します。
第2章 従来の開示困難の法的背景
1 通信の秘密の射程
憲法21条2項は「通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定する。最高裁判例は、通信の内容のみならず、通信の存在自体も保護対象と解しています。
LINEトークは、私人間通信であるため、その内容や送受信情報は原則として通信の秘密の保障対象となりました。
2 アカウント情報の位置づけ
電話番号やメールアドレスは、通信内容ではありません。しかし、それが特定の通信主体を識別する情報である以上、通信の秘密と密接に関連する情報と理解され、事業者は開示に慎重でありました。
この結果、弁護士会照会による開示はほとんど得られない状況が続いていました。
第3章 通報制度の法的構造
1 通報ログの性質
今回の制度は、「トーク内容」ではなく「通報ログ」を特定キーとして用いる点に特徴があります。
通報は、利用者が対象アカウントを運営会社に報告する内部システム上の行為であり、通信当事者間の意思伝達ではありません。
したがって、
• トーク内容 → 通信の秘密の中核
• 通報ログ → 事業者管理下のシステム記録
という区別が前提とされている。
2 通信の秘密回避の理論構成
照会書にはトーク内容を記載する必要はありません。
「勧誘を受けた」
「接触を受けた」
といった抽象的事実のみを簡潔に記載することが求められている。
これは、通信内容への言及を避けることで、憲法21条2項への抵触を回避する制度設計である。
3 技術的特定方法
LINEのIDが不明な場合、
• 通報元アカウントの特定
• 通報日時(±5分)
• 通報回数
により、対象アカウントを特定する。
この仕組みは、通信内容を利用せず、システムログを用いる点で限定的かつ抑制的である。
第4章 不貞訴訟における実務的意義
1 被告特定問題の解消
不貞訴訟においては、加害者の特定が訴訟要件の前提となっています。相手方の実名・住所が不明であれば、訴状提出自体が不可能でした。弁護士としては、電話番号、ナンバープレート、自宅、会社(要配慮)などから特定するなどをしていました。
通報制度は、この「前段階」の壁を突破する手段として機能するものです。
2 証拠保全との関係
LINEアカウント削除後も一定期間ログが残るとされるが、保存期間は限定的です。したがって、迅速な通報と弁護士会照会が必要となる。
これは、民事責任追及における証拠散逸防止の観点からも重要といえます。
3 制度的均衡
本制度は、
• 憲法21条2項(通信の秘密)
• 民法709条(不法行為責任)
• 民事訴訟法上の当事者特定要請
の均衡点を探る試みと評価できます。
通信内容は保護しつつ、加害者の匿名性による責任逃れを防止する構造である。
第5章 制度的評価と課題
1 限定的開示の意義
開示対象は電話番号・メールアドレスに限られる。トーク履歴やメッセージ内容は開示の対象外であることが明示されています。
この限定性は、比例原則の観点から妥当性を有するもんです。
2 実務上の課題
• 通報日時の記録不備
• 通報方法の誤り
など、利用者側の初動対応が成否を左右することも多くなりそうです。
制度は整備されたが、運用設計は弁護士の力量にも左右されるかもしれません。
3 将来的課題
本制度は、弁護士会照会という任意的手段に依拠している。より明確な立法的根拠の整備、デジタル時代における当事者特定制度の再設計が今後の課題といえそうです。
結語
LINE通報制度を利用した弁護士会照会は、通信の秘密を尊重しつつ、匿名的デジタル関係における民事責任追及を可能にする限定的な制度装置といえます。
それは、憲法的価値と私法的救済との調整点を模索する、過渡的だが重要な実務的解といえると思います。
不貞訴訟においては、単なる技術的手段ではなく、損害賠償請求権の実効性を確保する制度的鍵となり得る。
※なお、弁護士会照会のみの利用などを意図したお問い合わせはご遠慮ください。

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